ラーメン屋さんで劇。
さてどんな話にしようかと考え始め、すぐにあることを思い出しました。
以前住んでいた町にあったオシャレなラーメン屋さん。
店頭にバイクが飾ってあり店名のフォントもオシャレで、いつか食べに行こうと思っていたのですが、
ある時前を通ったらお店がなくなっていました。
あーあ残念だったな、と、そのお店のことはそのまま私の記憶から消えていくはずでした。
大分経ったある日、知り合いと話をしていてそのラーメン屋さんの話になりました。
その時に聞いた話を簡単に書きます。
そのお店は若いご夫婦がお二人で営んでいた人気店でした。
ある日ご主人が脚が痛いと言い出し、痛みをおして店に出ていましたが、ついに休むようになりました。
治療していたけれど、ほどなくご主人は亡くなってしまいました。
店は閉店することになり、常連さんが残された奥さまを励ますために店に集まってくれました。
その時奥さまには笑顔もあり、ツイッターには前向きな言葉を投稿していましたが、
何日か後、後を追うように亡くなってしまいました。
この話を聞いた後、奥さまが投稿していたツイッターがまだ残っていたので読んだのですが、
もうたまらなく辛くて、どうして世の中にはこんなにも悲しいことが起こるのかと思いました。
ラーメン屋さんが舞台の劇・・・もうこのご夫婦のことしか考えられなくなっていましたが、
いやでもどう書こうかととても悩みました。
一番たまらなく悲しいのは、やはり奥さまも亡くなってしまったこと。
まだ若く、ご主人の死を乗り越えれば、いや乗り越えるとかじゃないのかも知れないけど、
でもどうにか、泣き笑いしながら生きるという未来もあったはずです。
その時どうしていたら今でも彼女は生きていたかな?と考えました。
東京では、人に干渉しないされないが当たり前です。
されたくないと思っている人が実際多いのだろうし、したいと思っても、されたくないかもな、
と遠慮するのが正解のようにさえなっていると思います。
そっとしておいてあげようと彼女を遠巻きに見守る、という優しさで接していた人が多かったんじゃないだろうか。
そして一人で彼女は喪失感と悲しみと孤独の沼に沈んでしまって抜けられなくなった。
抜ける術はもうひとつしかないと思ってしまった。
彼女の死因はわかりません。だから私の想像でしかありません。
でももし、そんな彼女のそばにとっっっても図々しいおばさんがいたら!
家族でもないのにしょっちゅう連絡してきて、
そんな気分じゃないのに散歩行こうとかお茶しようとか言ってくる。
こんなに弱ってるのに仕事しなさいとか言ってくる。
外の話ばかりしてくる。
私は一人で自分の内と必死に向き合ってるのに。
それももう限界だけど・・・。
すると突然「あんたは一人じゃ無理、耐えられないよ」とか言い放つ。
え、何なの一体?
そして「わたしが全部付き合ってあげるから」って。
とにかく、誰より、とことん、そばにいてくれてる。
こんな人がいたら、もしかしたら今でも彼女は生きていたかも知れない。
そんな簡単なことじゃないと言われそうだけど。ただの希望だけど。
そうして、生きている彼女を書きました。
このコロナ禍の中、そぎたにが手持ちのマスクを使い果たしてしまって、マスクをせずに職場に行ったら、
同僚のおばさまが5枚もくれたそうです。おばさま優しい。
ガハハと笑ってたくましく生きるおばさんは時に鬱陶しがられたりするけれど、
いや大事にしなきゃダメ、って思います。
それから、みどり人ではよくあるのですが、過去作品に登場した人物が3人出てきます。
ちゃんと以前の設定はそのままに、です。
こういうの本当に楽しいです。
だって、その人の過去を描かなくてもお客さんはもう知ってくれているのですから。(観た方限定だけど)
こうやって書いていくと、その内歴代登場人物みんなつながるんじゃないかって思います。
世界はひとつ!
鈴木淳さんが撮ってくださった写真、出演者の表情が本当にいいので是非ご覧になってください。
とても狭い客席で窮屈な思いをさせてしまったお客さま、すみませんでした。
観に来てくださってありがとうございました。
2020年4月22日
さいじょうゆき
~出演者からのコメント~
〇馬場しあさ(河瀬美和役)
劇の終わり、荻野目おじいちゃんが作ったラーメンを囲んで、全員でやいのやいのするシーン、楽しかった。
思い出します。やいのやいの。UFOを呼ぶやいのやいのもありました。楽しかった。
そして、河瀬美和という人を好きになりました。
最近はダブルワークで中華屋のバイトしてるかも知れないな、とか、キックボクシング始めちゃってるかも知れないな、とか、その後の美和ちゃんのことを考えてしまう。
また美和ちゃんに会いたいです。
〇辻川幸代(田所美夜子役)
私の行きつけのラーメン店八蔵さん。通ってるうちに店主と奥様と仲良くなり、お芝居の話になり、定休日に軽いお芝居をやってみない?という話になりました。
週一度(火)公演で1カ月、不思議な緊張感の1ヶ月でした。というか、通常の舞台公演より気が抜けないぞという感覚が強かったです。圧倒的なリアルなセットに埋没しそうな感覚。何より、次の週の本番まで台詞やら段取りやら覚えてられる?という事で、本番2日前くらいに毎週稽古してました。
本番は店外で待機し、入ってくる時間をさいじょうさんからLINEしてもらうシステムなので、街を徘徊しタイミングを合わせる。ラーメンを普通に食べに来てしまうお客様への本番中の対応。小道具を忘れたり、急なハプニングが起きた時のあらゆる想定を考えつつ。
この文章を書きながら思い出してみると、なんと恐ろしい事をやったのだわと、今更ながらじわじわと感じています。
さいじょうさんは、限られた空間を使い、役者に合わせてストーリーを組み立てるのがとても上手です。今回の「Og.」はそれプラス、何の役がやりたい?どんなシチュエーションがやりたい?など役者に聞いてくれました。
そして、私の希望「私は実は宇宙人だった」ということを、ストーリーに絶妙にねじ込んで叶えてくれたので、とてもうれしかったです。
またこんな企画やれたらいいな、怖いけど。やみつきになりそうな企画でした。
〇山﨑由布子(表駆流役)
「Og.」懐かしいですね~。でもまだ1年、いや、もう1年なのか。この感覚は演劇あるあるですね。
「Og.」は限られた空間で動きもほとんどなくて、まさに「会話劇」でしたね。かなり苦戦したのを覚えています。私が演じた表駆流(おもてかける)くんは前作の「happiest」でも演じた役で、同じ役を違う作品で演じるという初体験もしました。さいじょうさんから「どんな役やってみたい?」って言われた時に「男の役をやってみたい」と言ってできた役です。駆流くんは、体は女性、心は男性なんです。どこか自信無さげで、俯いてばかりいるんですけど。意外と積極的で行動力もあって。めっちゃいい奴です。いつかまた会えたらいいな~と思っています。
印象に残っているシーンはしあささん演じる河瀬美和さんとの2人だけのシーン。美和さんに恋をしていて、振られてしまうんですが、本当に泣きそうになりました。
「Og.」でお世話になったラーメン屋八蔵さんが閉店してしまってとても寂しいですが、こういった場所でまた演劇が出来たらいいなと。とてもいい経験をさせて頂いた八蔵さん、ありがとうございました!
〇宮本愛美(荻野目ミツ役)
《荻野目ミツばぁさん》役の宮本愛美です。
「よその人の店のもんなんやけん、勝手に触りなんなよ!」懐かしいですねぇ。シーンの中で、ラーメン屋さんを出て中の様子が分からなくなる時間も不安でしたが、やっぱり私の緊張MAXは冒頭ですよね。あの近さにいるお客さんの前に最初に出ていって、大好きな福田こうへいDVDに掛け声する。「かわいらしや、こうへいくんよ!」本物の老眼鏡をかけて視界をぼやかせていました。ここだけの話。
〇そぎたにそぎ助(荻野目治一郎役)
初のラーメン屋さんでの芝居について、僕が感じたことを箇条書きにしてお伝えします。
・なんか知らんけど、初日めっちゃ緊張した。
・本番前隣にいたマナフィ(宮本愛美さん)が、はぁはぁ言ってて緊張した。
・裏でトランペット吹く係の店主松崎さんが一番緊張してた。
・差し入れでもらったチョコのなんかがうまかった。
・ニコラスさんのアボガドサンドウィッチがうまかった。
・打ち上げでお世話になったかとり屋さんのご飯がうまかった。
・松陰神社前グルメをもっと堪能したかった。
舞台写真です。クリックすると大きくなります。
撮影:鈴木淳